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神戸家庭裁判所 昭和45年(家)1516号 審判

申立人 大野喜美子(仮名)

相手方 築山幸二(仮名)

主文

相手方は申立人に対し

一  金二四、〇〇〇円および昭和四六年四月から長男大野清(昭和四二年三月五日生)長女大野俊子(昭和四四年一月一四日生)がそれぞれ満一八歳に達する月まで毎月末日限り一人につき金七、五〇〇円宛(ただし昭和四七年三月までは各九、〇〇〇円宛)を

二  昭和四六年六月末日限り金二八、一七六円を

三  金六五、〇〇〇円を、

イ、昭和四六年六月末日限り金三〇、〇〇〇円

ロ、同年一二月二〇日限り残金三五、〇〇〇円

に分割し

いずれも神戸家庭裁判所に寄託して支払え。

理由

申立人は「相手方は申立人に対し、

一  長男大野清(昭和四二年三月五日生)長女大野俊子(昭和四四年一月一四日生)の養育料として同人らが各満一八歳に達するまでの間毎月一人当り一〇、〇〇〇円宛

二  申立人が昭和四四年一一月卵巣手術のため○○病院に入院治療を受けたことによる医療費二八、一七六円

三  申立人が相手方と別居のやむなきに至つた昭和四四年九月二八日から昭和四五年七月六日調停離婚成立に至るまでの間の生活費として毎月一〇、〇〇〇円宛

を負担して支払え」との審判を求め、事件の実情として

一  申立人は相手方と昭和四一年二月八日婚姻(四月二六日届出)し、長男清(昭和四二年三月五日生)長女俊子(同四四年一月一四日生)をもうけた。相手方は○○電機に勤務していたが、飲酒、パチンコ遊びなどでよく会社を休み、帰宅時刻も遅いことが多かつた。そして僅かなことで申立人や子供に乱暴し、申立人は堪え切れなくなつて昭和四四年九月二八日実家に帰つた。

二  そして、昭和四五年三月七日出雲市○○町○○旅館において、相手方との間に(一)離婚すること(二)子供両名は申立人が親権者となること(三)相手方は養育料合計一八、〇〇〇円を負担することで協議ができたが、翌月一六日に至り、相手方は養育料を一五、〇〇〇円にしないと離婚届に応じないと申し入れてきたので、申立人は松江家裁出雲支部に調停の申立をした結果、長男清、長女俊子両名の親権者は申立人と定め、申立人において監護養育することとして調停離婚が成立したが、養育料その他の金銭問題については解決を見るに至らなかつた。

三  相手方は○○大学工学部電気科を出て○○電機に技術員として勤め、月収六五、〇〇〇円ないし七〇、〇〇〇円と他に年二回の賞与があり、申立人と離婚後社宅でひとり暮しをしている。一方申立人は幼児二名を抱えて働くことができず、僅かに新聞代集金のアルバイトにより月収六、〇〇〇円と編物の内職収入若干を得ているだけで、母子の生活費はもつぱら親の援助によつている。

四  しかし、子供の養育費や婚姻中の生活費は夫婦の資力に応じて分担すべきであり、申立人と相手方の収入、生活状態は上記のとおりであるから、相手方は申立人に対し

(一)  長男清、長女俊子の養育費として同人らが各満一八歳に達するまでの間毎月一人当り一〇、〇〇〇円宛

(二)  申立人が昭和四四年一一月卵巣手術のため○○病院に入院治療を受けたことによる医療費二八、一七六円

(三)  申立人が相手方と別居のやむなきに至つた昭和四四年九月二八日から昭和四五年七月六日調停離婚成立に至るまでの間の申立人の生活費として毎月一〇、〇〇〇円宛

を負担して支払うことを求める、と述べた。

相手方は、申立人主張の事実については争わなかつたが、申立にかかる

(一) の養育費は月額二〇、〇〇〇円は過大であり、両名につき一五、〇〇〇円で十分である。したがつて月額一五、〇〇〇円を限度として負担義務を認めるが、それを越える額については支払えない。

(二) の申立人の医療費二八、一七六円については全額支払義務を認める。

(三) の別居後の申立人の生活費については当時申立人と相手方との間で、申立人において負担し、相手方には請求しない旨の協議が成立していたので、相手方には支払義務がない

と述べた。

なお、昭和四五年一月から昭和四六年三月まで相手方から申立人に対し、子二名の養育費として月額一八、〇〇〇円宛(ただし、四五年六月から四六年一月分までは各一五、〇〇〇円)を送金しているほか別居に際し、夫婦の貯金五〇、〇〇〇円を折半し、各自二五、〇〇〇円宛を取得したことについては当事者間争いがない。

(当裁判所の判断)

一  子の養育費について

申立人が監護中の双方間の長男清、長女俊子の養育費については、双方の収入、生活状態、子の必要生活費、物価の現状等を基礎とし、昭和四五年三月頃夫婦間で養育費について成立した協議および家庭裁判所調査官梶房義雄の調査報告書記載の計算を考慮すると、子一名につき月額九、〇〇〇円相当程度の生活を受けさせるのが妥当と認められ、申立人は現在子どもたちが幼いため、就職して十分の収入をあげることができない状態にかんがみ、すくなくとも昭和四七年三月に至る向う一年間は子一人につき月額九、〇〇〇円宛合計一八、〇〇〇円を、ついで申立人が順次収入の道を講じ得るようになり、一方相手方も再婚が考えられる昭和四七年四月以降子がそれぞれ満一八歳に達する月までは一人月額七、五〇〇円宛合計一五、〇〇〇円を負担して支払うのが相当である。

また、相手方はこれまでの養育費のうち昭和四五年六月から四六年一月分までは各一五、〇〇〇円宛しか支払つていないので一八、〇〇〇円との差額八か月分合計二四、〇〇〇円については遅滞していることになる。そして、申立人はこれを父から立て替えを受けて子二名を養育して来たものであり、扶養の必要性が消滅したとは言えないから相手方は申立人にすみやかにその金額を支払う義務がある。

二  申立人の医療費について

申立人の請求にかかる別居中の医療費二八、一七六円については、相手方もこれを認めて請求に応じてよいとしており、松江家裁出雲支部における申立人審問調書の記載によつても、相手方がこれを負担するのが相当と認められるから、相手方は上記医療費二八、一七六円の全額を申立人に支払う義務がある。

ただし、その支払時期については、賞与月である昭和四六年六月末日とするのが相当である。

三  別居中の申立人の生活費について

上記審問調書中申立人の供述によると申立人が相手方と別居して実家に帰つたのは、もつぱら相手方の暴力が原因をなしたと認められ、かつ、申立人は幼児二人を抱えて自分で職業に就くことができず、他に収入がなかつたことが認められるから、その生活費は夫である相手方において全額を負担するのが相当である。そしてその額は物価の状況から少くも月額一〇、〇〇〇円以上を必要としたことが明らかである。したがつて、申立人が別居した昭和四四年九月二八日から調停離婚の成立した昭和四五年七月六日まで約九か月間の生活費は合計九〇、〇〇〇円以上になる。もつとも別居時二五、〇〇〇円を分配しているからその差額は六五、〇〇〇円である。松江家裁出雲支部における申立人および父大野安雄の審問調書によると、申立人はこの生活費を相手方に請求したけれども相手方が支払に応じないので、やむをえず父の立替を受けて来たことが認められるから、相手方は上記金額六五、〇〇〇円を申立人に支払う義務がある。

夫婦が離婚後過去の生活費を婚姻費用として一方に請求できるかについては説が分れるところであるが、民法が離婚後財産分与の請求を認めていることからして、過去の生活費の清算未了分についてもその一部として分担を求めうるものと解する(これは、上記医療費についても同様のことが言いうる)よつて、申立人が上記別居期間中生活費の負担を求める申立は正当であり、相手方は上記六五、〇〇〇円を支払う義務がある。ただし、その支払時期については相手方の生活状態により昭和四六年七月末日かぎり三〇、〇〇〇円を、同年一二月末日かぎり三五、〇〇〇円を支払うべきものとするのが相当である。相手方は別居以後の生活費については、相手方に請求しないとの協議があつたと主張するけれども、その事実を認めるべき資料がないから、その主張は採用できない。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 坂東治)

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